「机上の空論で終わらせたくない。現場の実務を、できるだけ早く自分の身で体験しておきたい。」そう思って、大学に入学すると同時に、調剤薬局でアルバイトを始めました。ちょうど、新型コロナウイルスが広がり始めたタイミングでした。
授業はオンラインに切り替わり、キャンパスに通えない日々がしばらく続きました。でも、その間もアルバイト先の調剤薬局は、当たり前のように毎日開いていました。
患者さんは変わらずいらっしゃいますし、薬は変わらず必要とされる。大学が止まっても、医療現場は止まらない。その現実を、社会に出る前に肌で知ったことが、今の自分の出発点になっている気がします。
薬局では医療事務として働いていました。医師や薬剤師さんではなく、事務の私だから話しやすい、ということが患者さんとのやり取りの中で何度もありました。診察室では言いそびれたこと、薬剤師さんに聞くほどでもないと思って飲み込んだこと。そういう本音が、ふとした会話の中でこぼれてくるんです。
患者さんからいただく何気ない一言は、現場で働く医療従事者にとって、実はとても励みになるものです。
最初は「専門家じゃない自分に話してもらえてよかった」くらいにしか思っていませんでした。でも次第に、患者さんが「これは医療従事者には言うほどまでではないかも」と自分で判断して飲み込んでしまうその本音こそが、実は医療現場が一番必要としている情報なんじゃないか、と思うようになりました。小さな違和感、続けている自己流の対処、言い出せなかった不安。専門家に届く手前で消えてしまう声が、たくさんあるんです。
専門家に届く手前で、
消えてしまう声がある。
その気づきをさらに強くしたのが、病院・薬局実習で在宅患者さんのお宅にお邪魔したときの経験でした。ご自宅には、薬が残っているんです。それも結構な量。でも、それが何のための薬で、いつまでのものなのか、本人も家族もよくわかっていない。いわゆる「残薬」です。
薬局では、ロットと期限を厳密に管理していて、期限が切れた薬が患者さんに渡らないよう徹底されています。それだけ厳しく管理された薬が、いったん家に渡った瞬間、その管理は途切れてしまう。プロとして薬を扱う現場と、家庭という現場との間に、こんなに大きな差があることに、実習を通して気づかされました。
家庭の薬棚は、
実は誰も把握できていない。
「医療従事者には言うほどまでではない」と、患者さん自身が飲み込んでしまう本音。
「家にあるけど、もう何の薬か
わからない」という残薬。
この2つは、一見別々の話に見えて、実は同じ根っこを持っています。どちらも、専門家の目が届かないところで起きている。だからこそ、専門家じゃなくても、家庭の中で安全に判断できる仕組みが必要だと思いました。
クスナビは、この2つの気づきから生まれています。