家族が突然倒れて救急車を呼んだ。 病院に着いた直後、 医師から立て続けに質問されます。 「持病は?」 「普段の薬は?」 「アレルギーは?」 「体重は?」 「最後の食事は?」 — その場で答えられず、 頭が真っ白になった経験がある方は少なくないはずです。

  • 急変時に医師が必ず聞く情報は 10 項目 あり、 答えられないと診療が遅れる
  • 特に重要 = 既往歴 / 服薬歴 (抗凝固薬!) / アレルギー / 体重 / 体内デバイス / キーパーソン
  • 家族で共有 = 「集約場所を決める → 1 枚シートを書く → 年 1 回見直す → アプリ + 紙で備える」 の 4 ステップ
  • 30 分で家族全員分の医療情報シートが完成する
  • 「億劫だけど、 やったら安心がぜんぜん違う」 種類の準備

医師として救急の現場に立つと、 ご家族が答えられない情報のせいで、 診療の判断が遅れたり、 本来できる治療が制限されたりする場面 を本当によく見ます。 検査も投薬も、 患者さんの背景情報があってこそ安全に進められるものだからです。

家族で一度共有しておくだけで、
いざというときの医療が
ぐっと早く・安全に進む。

急変時、 医師が家族に必ず聞くこと

救急外来に運ばれた患者さんに対して、 医師は数分のあいだに次のような情報を集めて、 検査と治療の方針を決めます。

  1. 既往歴
    過去にかかった病気・手術・入院歴
  2. 服薬歴
    普段飲んでいる薬すべて
  3. アレルギー歴
    薬・食物・造影剤など
  4. 体重と身長
    薬剤・点滴・造影剤の量を計算
  5. 手術歴・体内医療機器
    ペースメーカー・ステントなど
  6. キーパーソン
    本人の意思決定を代理できる家族
  7. かかりつけ医・かかりつけ薬局
    過去の診療内容問い合わせ用
  8. 保険証・公費受給者証の場所
    入院・検査の手続きに必須
  9. 直近の食事時間
    緊急手術・全身麻酔の判断に直結
  10. 発症時の状況
    倒れたときに何が起きていたか

これらは「あれば便利」 ではなく、 「答えられないと診療が止まる、 あるいは安全側に振りすぎて遅れる」 情報 です。 一つひとつ、 なぜ必要なのかを次に説明します。

なぜそれが聞かれるのか — 医療側の意図

1. 既往歴 — 隠れた病気を読み解く鍵

過去にかかった病気は、 いま起きている症状の原因や、 今後の合併症リスクを推測する大事な手がかりです。 「以前、 心筋梗塞をやった」 と分かれば、 いま起こっている胸痛は再梗塞かもしれないと考え、 適切な検査につなげられます。 「がんの治療歴がある」 と分かれば、 転移や再発を念頭に検査を組めます。

特に重要なのは、 心疾患・脳血管疾患・高血圧・脂質異常症・糖尿病・がん・精神科の既往・手術歴。 これらは聞かれる頻度が高く、 答えられないと診療の方向が定まりません。

2. 服薬歴 — 薬の重複・相互作用を防ぐ

特に重要: 抗凝固薬・抗血小板薬

ワーファリン / エリキュース / リクシアナ / プラザキサ / イグザレルト / バイアスピリン などを飲んでいる方が頭をぶつけたり大きな出血をしたりすると、 対応がまったく変わります。

そのほかにも、 心臓の薬・降圧薬・糖尿病薬・ステロイド・免疫抑制剤・ホルモン薬・精神科の薬など、 いざというときの治療判断に大きく影響する薬がたくさんあります。

お薬手帳を一冊にまとめておくこと、 そして そのお薬手帳がどこにあるかを家族全員が知っていること、 この二つが揃って初めて意味があります。

3. アレルギー歴 — 命に関わる投与を避ける

薬剤アレルギーや造影剤アレルギーは、 知らずに投与すると アナフィラキシー を起こして命に関わります。 食物アレルギーやラテックスアレルギーも、 入院時や手術時の対応に影響します。

「ペニシリンで蕁麻疹が出た」 「造影 CT で気分が悪くなった」 など、 過去にどんな薬で何の症状があったか、 家族で共有しておくことが大切です。

4. 体重と身長 — 薬の量を決める

体重は 薬剤投与量・点滴量・造影剤量 の計算に使う基本情報。 身長と組み合わせて算出する 体表面積 (BSA) も、 抗がん剤など一部の治療では必須。 「だいたい何キロ」 が分かれば十分。

5. 手術歴・体内に入っている医療機器

過去の開腹手術歴は、 腹部の癒着の可能性を示し、 再手術や腹痛の鑑別に影響。 ペースメーカー・体内除細動器 (ICD) の有無は、 MRI 検査の可否を分けます。 ステント・人工関節・人工弁 も、 抗血栓治療や感染症対策に関わる重要情報。 患者本人ですら忘れていることがあるので、 家族と一緒に整理しておく と確実。

6. キーパーソン — 意思決定の代理人

意識がない・判断能力が低下している患者さんに対して、 検査の同意・手術の同意・終末期の方針などを決めるとき、 医師は 「本人の意思を代弁できる家族」 に話します。 これがキーパーソンです。

独居・高齢夫婦・施設入所中の場合
  • 独居 → 別居の子・きょうだい・甥姪などのうち 誰に最初に連絡するかを本人と決めておく
  • 高齢のご夫婦 → 「お互いがキーパーソン」 だが、 片方が倒れたときの次点 (別居の子など) も決めておく
  • 施設入所中 → 施設のスタッフが医療機関に付き添うことが多いため、 施設にも家族の連絡先を共有

7-10. 残り 4 項目

項目診療への影響
かかりつけ医・薬局過去の診療内容や持病の詳しい情報の 問い合わせ先。 入院後のフォローもスムーズに
保険証 / 公費受給者証の場所入院・検査の手続きで必須。 「あの引き出しに入っている」 と家族全員が知っているだけで初動が変わる
直近の食事時間緊急手術・全身麻酔の前に十分な時間が空いていないと 誤嚥のリスク が上がる
発症時の状況「倒れる前何をしてたか」 「意識がなかった時間」 がてんかん / 脳卒中 / 心停止 / 薬剤性 / 低血糖 などの鑑別に必須。 目撃したご家族の証言が、 唯一の情報源 であることも

どうやって家族で共有するか — 実践編

ここまで読んで、 「11 項目もあるのか」 「家族と話したことがない」 と思った方が多いはず。 実は、 全部を一度にやろうとすると挫折する ので、 段階的に進めるのが現実的です。

  1. 「集約場所」 を一つ決める
    家の中で、 家族の医療情報を集約する場所を一つ決めます。 冷蔵庫のドア・玄関の引き出し・リビングの決まった棚 など、 家族全員が「あそこに入っている」 と認識できる場所が理想。
  2. 一枚の「医療情報シート」 を書く
    家族一人ひとりについて 1 枚の紙にまとめる。 手書きで OK。 完成したらステップ ① の集約場所に置く。
  3. 年に一度、 見直す
    健康情報は変わる。 誕生日・結婚記念日・年末年始 など思い出しやすい日を「医療情報の更新日」 にする。
  4. アプリと紙の両方で備える
    クスナビは家族の薬・既往歴・アレルギーを一元管理できる。 ただし 紙の代替ではなく両方使う ことを推奨 (= 電池切れやアプリトラブル対応)。

医療情報シート テンプレート

家族一人につき 1 枚

氏名: 生年月日: 血液型: 身長 / 体重 (直近): 既往歴 (過去の病気・手術・入院): 普段の薬: アレルギー (薬・食物・造影剤など): 体内に入っている医療機器 (ペースメーカー等): かかりつけ医 (医療機関名・電話番号): かかりつけ薬局: 保険証の保管場所: キーパーソン (緊急時の意思決定代理人): キーパーソンの電話番号:

終末期の意思共有は、 別記事で

家族で共有しておくべきもっと深い領域として、 「もし意識がなくなったとき、 どこまで医療を望むか」 という終末期の意思共有 (= ACP / DNAR / リビングウィル) があります。 これは本記事のスコープから外れる重い領域ですが、 家族の備えとして避けて通れないテーマです。 別記事で詳しく扱います → 終末期の意思共有 — ACP / DNAR / リビングウィル

まとめ

  • 急変時に医師が必ず聞く情報は 10 項目 あり、 答えられないと診療が遅れる
  • 特に重要なのは 既往歴・服薬歴 (抗凝固薬!)・アレルギー・体重・体内デバイス・キーパーソン
  • 家族で共有するには、 まず 家の中に集約場所を一つ決める
  • 一人ずつ 医療情報シートを 1 枚書く (手書きで OK)
  • 年に一度、 見直す日 を決めておく
  • アプリと紙の両方で備える (クスナビは情報の一元管理に活用可能)

これは 「億劫だけれど、 やったら安心がぜんぜん違う」 種類の準備です。 今日この記事を読んだのを機に、 まずは集約場所を決めるところから始めてみてください。 30 分あれば、 家族全員分の医療情報シートが完成します